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宮崎家庭裁判所 昭和41年(家)107号 審判

申立人 ジョン・ケイ・エドモンド(仮名) 外一名

未成年者 山川アンゼラ・レイ(仮名) 一九六三年七月三〇日生

主文

申立人らが未成年者を養子とすることを許可する。

理由

(本件申立の要旨)

申立人ジョン(一九三一年六月二四日生)および申立人ケーリー(一九二七年三月二三日生)の両名は、一九五九年六月一六日に婚姻した夫婦であり、ともにカナダ国(ブリティッシュ・コロンビア州)の国籍を有する宣教師として、婚姻後間もなく来日して伝道に従事し、現在宮崎市内に住所を有するものである。一方、未成年者(一九六三年七月三〇日生)は、その実母・山川ヤエ子が在日米海軍下士官と情を通じ、その間に出生した非嫡出の子(父の認知はない)であるが、出生後五か月位で、佐世保市天神町所在の社会福祉施設ワールド・ミッションに預けられたものである。

ところで、申立人夫婦は、実子に恵まれなかつたため、一九六五年一一月三〇日上記ワールド・ミッションから未成年者を引き取り、実子同様に監護養育して現在に至つたのであるが、此度、未成年者と正式に養子縁組をしたく、未成年者の法定代理人たる実母・ヤエ子も、これを承諾しているので、本件申立に及んだ。

(当裁判所の判断)

申立人らが主張する以上の事実は、当裁判所の調査によつてすべて真実と認められる。

このように、申立人両名および未成年者は、いずれも宮崎市内に住所を有するので、本件渉外養子縁組許可事件については、日本国の裁判所が裁判権を有し、当家庭裁判所が管轄権を有することは、明らかであるというべきである。

次に、本件養子縁組の準拠法について考察するに、まず、日本国法例一九条一項によれば、養子縁組の要件は、各当事者につきその本国法によつて定めることになつているから、本件では、養親たるべき申立人両名については、その本国法たるブリティッシュ・コロンビア州法を適用し、養子たるべき未成年者については、その本国法たる日本法を適用すべきことになる訳である。

ところで、日本国法例二九条は、当事者の本国法によるべき場合に、その国の国際私法上、日本法が準拠法として指定されているならば、日本法を適用する旨を規定しているから、本件においても、この反致の成否を検討する必要がある。そこで、この点を申立人両名の本国たるブリティッシュ・コロンビア州(以下「B・C州」という)の国際私法について、最高裁判所事務総局家庭局長の当裁判所長に対する昭和四二年(一九六七年)二月九日付回答を参考にして検討するに、養子縁組に関する同州の国際私法については、同州の養子法一一条以外に明文の規定は見あたらず、しかも同条は、同州における外国養子縁組の承認に関する規定であつて、当面の養子縁組に関する準拠法の指定について規定するものではないと解されるから、問題は、もつぱらカナダ一般の国際私法によつて解決するのほかはないというべきところ、これについても、明文の規定は見あたらないが、一般に、ケベック州を除くカナダ国の諸州では、英国のコモン・ローを継受しており、養子縁組に関する国際私法についても、英国の国際私法と同様の原則が採られているもの、つまり養子縁組は、養親のドミサイル(domicile)があり、かつ養親と養子が居住している地の法律によるべきものであると解される。そこで、この見地から本件をみると、申立人両名および未成年者が日本に居住(residence)していることは、上述のとおりであるけれども、申立人ジヨンを審問した結果によれば、申立人夫婦は、ともにメノナイト宣教団から日本に派遣された牧師であるが、同宣教団の制度上、海外宣教師として活動し得る年齢は六五歳までに限られており、その後は本国に帰国する(それまでにも、五年おきに一年間づつ帰国を繰り返す)ことになつているので、日本に永久に居住する意思を有するものではないと認められるから、申立人両名は、日本にドミサイル(domicile of choice)を有するものではないというべく、したがつて、本件につき反致を認めることはできない。

要するに、本件養子縁組については、養親側の要件につきB・C州の養子法(Adoption Act)を適用し、養子側の要件につき日本民法を適用すべきことになる。

ところで、わが民法によれば、未成年者を養子とするには、家庭裁判所の許可を得なければならないが(同法七九八条)、B・C州の養子法においても、養子縁組には裁判所(Supreme Court)の養子決定(adoption order)が必要であると解され(同法五条(1)項・九条(1)項)、しかも、この許可や養子決定は、養親と養子双方の側の要件であると解される。そこで、わが家庭裁判所の許可審判をもつてかの養子決定手続を代行しうるかどうか、が問題になる訳であるが、本来、B・C州の養子決定は、養子縁組を成立させる方式の部分と養子縁組の実質的要件を審査する部分とに分けて考えうるものというべく、そうとすれば、前者の方式については、日本国法例八条二項により行為地法たる日本法の方式・すなわち戸籍管掌者に対する養子縁組の届出によつて代えうべきものであり、後者の要件審査については、これと類似の機能を有するわが国の許可審判手続によつて代行しうるものと解するのが相当である。

そこで、この立場から本件養子縁組の実質的要件を審査するに、冒頭認定の事実によれば、未成年者が申立人夫婦の養子となることにつき、わが民法上なんら障害のないことが明らかであり(特に、同法七九七条によつて、養子となる者が一五歳未満であるときに必要とされる法定代理人の縁組承諾については、当裁判所より長崎家庭裁判所佐世保支部へ調査を嘱託し、同支部家事審判官が山川ヤエ子を審問した結果によつて確認されている)、また、申立人夫婦の側についても、B・C州の養子法に規定する成人夫婦の共同縁組(四条(1)項)・子との縁組意思による六か月間の同居生活(七条)、子に対する監護養育の能力(九条(1)項)等縁組に必要な一切の要件を具備するものと認められ、しかも、本件養子縁組によつて、未成年者の福祉を増進しうることは、明らかなところということができよう。

以上の次第であるから、本件申立を相当であると認め、主文のように審判する。

(家事審判官 佐藤邦夫)

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